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那覇地方裁判所 平成7年(わ)293号 判決 1996年3月07日

主文

被告人A及び被告人Bを各懲役七年に、被告人Cを懲役六年六か月にそれぞれ処する。

未決勾留日数のうち、被告人A及び被告人Bに対しては各九〇日を、被告人Cに対しては七〇日を、それぞれその刑に算入する。

理由

以下の理由中においては、被告人Aを「被告人A」と、被告人Cを「被告人C」と、被告人Bを「被告人B」と、それぞれいうこととする。

(犯罪事実)

被告人三名は、通行中の女性を捕まえて強姦することを共謀し、平成七年九月四日午後八時ころ、沖縄県国頭部《番地略》において、道路を歩いていたD子(当時一二歳)を見つけて、同女を強姦しようと考えた。被告人三名は、乗っていた乗用車を同字《番地略》先付近に停車させた後、被告人Aが同車の運転席で待機した上で、被告人C及び同Bが同女のもとに赴いた。そして、右同所付近において、被告人Cがいきなり同女の背後から腕を巻き付けるとともに、被告人Bが同女の顔を殴り、被告人Cがそのまま同女を同車のところまで引きずって連れて行き、同車の後部座席に無理やり乗車させた。被告人Aは、直ちに同車を発進させ、同字《番地略》番地所在のE広場の南側農道まで走行させた。その間、被告人C及び同Bが、同車内において、所持していたダクトテープで同女の両目及び口を覆い、さらに両手首及び両足首を縛った。その後、右農道に駐車した同車の後部座席において、被告人Aがさらに同女の顔及び腹を殴るなどの暴行を加えて抵抗できないようにした。その上で、同日午後八時二〇分ころまでの間、まず被告人Aが姦淫し、続いて被告人Cが姦淫しようと試みたが、そのうち同女が幼いことに気付いたために姦淫を断念し、さらに続いて被告人Bが姦淫して、それまでの間、同女が脱出できないようにした。同女は、右姦淫行為及びその手段として行われた暴行を受けたことにより、加療約二週間を要する右顔面打撲、左側腹部打撲、処女膜裂傷等の傷害を負った。

(証拠)《略》

(事実認定の説明)

一  前記認定の犯罪事実のうち、被告人三名が女性を捕まえて強姦することを共謀したこと、被告人三名が実際に被害者を逮捕監禁した上、被告人Aが姦淫したこと、姦淫の手段として行われた暴行等により被害者が傷害を負ったことは、前掲関係各証拠から明白に認められる事実であり、被告人三名及びその弁護人らもこれらの事実を認めて争っていない。したがって、被告人三名について、いずれも逮捕監禁罪及び強姦致傷罪が成立することは明らかである。

二  ところで、被告人Bは、公判廷において、前記認定の犯罪事実のうち、自分が姦淫したことを否定し、第三回公判においては、被害者を捕まえる際に自分が殴ったことについても否定した。当裁判所は、被告人Bのこれらの点に関する公判供述は信用できないと判断し、前掲関係各証拠により前記犯罪事実のとおり認定した。もとより、本件において、被告人Bに逮捕監禁罪及び強姦致傷罪が成立することは、同被告人が否定する右各事実の有無、すなわち、同被告人自身が姦淫したか否か、被害者を殴ったか否かによって左右されるものではない。しかし、公訴事実に含まれるものであり、また、情状面において考慮の対象となるものである。そこで、当裁判所が右のとおり判断及び認定した主要な理由について説明する。

1  被害者を捕まえる際に被告人Bが殴ったと認定した点について

(一) この点に関して、被害者は、話しかけてきた黒人が自分の顎の辺りを左右の拳で二回殴りつけてきた旨を明確に供述している(被害者の検察官調書)(実況見分調書〔甲14〕中の同人の指示説明部分も同内容である。)が、話しかけた黒人が被告人Bであることは同被告人の公判供述等の証拠から明白である。また、被告人Cも、被告人Bが被害者の顎辺りを殴りつけた旨を明確に供述している(被告人Cの検察官調書〔二通・乙10及び11〕)(実況見分調書〔甲38〕中の同被告人の指示説明部分も同内容である。)。これらの供述は相互に符合するものである上、いずれも正確性等に疑いを抱かせる事情はまったく存在しない。そして、被告人B及び同Cの各公判供述等の証拠によれば、犯行当日に被告人三名らの間で強姦の話が出た際、被告人Aは、一人が女性を殴って、もう一人が捕まえるという方法を被告人Bらに提案していることが認められる。被害者及び被告人Cの前記供述は、この被告人Aが提案した拉致の方法とも符合するものである。

これらの事情からすれば、被告人Bが被害者を殴ったという内容の被害者及び被告人Cの各供述は、信用性が高いと考えられる。

(二) 被告人Bは、第一回公判の公訴事実に対する認否において、何らの留保や求釈明もすることなく、被害者を殴ったことを認めた。しかし、第三回公判では、検察官から殴ったことがあるかときかれるや、「いいえ、殴っていません。」と否定した上、第一回公判で認めた理由については、「被告人Cが被害者を捕まえた後、自分は被告人Aが待つ乗用車へと走ろうと思ったが、目の前に被害者と被告人Cがいたので、平手で押し退けるような動作をした。その際に自分の腕が当たったのではないかと思う。それを殴ったといわれているのではないかと思って認めた。」旨を供述した。

しかし、平手で押し退けるという動作と殴るという動作とは異なるものであるし、実況見分調書(四通)等の証拠によれば、被害者を捕まえた現場は、幅約六メートルの道路上であって、わざわざ被害者や被告人Cを押し退けるような動作を行わなければならない事情は何ら認められない。したがって、第三回公判での右供述は内容自体に納得し難いものがある。そして、被告人Bの検察官調書(二通・乙23、30)によれば、同被告人は、捜査段階において、検察官から被害者を殴っていないかを尋ねられた際、殴った事実は一切ないと繰り返し断言していたことが認められ、他方、平手で押し退ける動作をしたなどと供述した形跡はまったくない。この捜査段階での供述態度は、公判での右各供述と矛盾するものである。

このように、被告人Bの右公判供述は、単に変遷しているというだけでなく、変遷の理由として説明された内容は納得し難い不合理なものであり、かつ、捜査段階での供述態度に照らしても矛盾するものである。したがって、被害者を殴っていない旨の被告人Bの供述は信用することができない(被告人Cは、第四回公判において、「被告人Bが殴ったのを直接見たわけではない。被害者を捕まえた自分の腕に押すような感触があったので、捜査官から被告人Bが殴ったと聞いていたこともあり、それなら殴ったのであろうと思った。それで、被告人Bが被害者を殴ったと捜査段階で述べた。」旨を述べている。これは、被告人Bの第三回公判での前記供述に沿ったものといえる。しかし、被告人Cの捜査段階での検察官に対する供述(検察官調書〔二通・乙10及び11〕)は、被害者の顔面の辺りを拳で殴ったとか、被害者の顎の辺りをパンチで殴ったとか内容が非常に具体的である。しかも、自分が分かった範囲では一回だけであったと思うなどと述べており、慎重かつ正確に供述しようとする態度が窺える。そして、被告人Cは、右検察官調書の記載内容全般について、子細な表現についても訂正を申し立てたり、分からない点、はっきり見ていない点については、分からないとか、間違っているかも知れませんなどと述べているのである。したがって、このような被告人Cが、本当は見ていないにもかかわらず、あたかも見たことのように被告人Bが被害者を殴ったと供述したとは考え難い。そして、被告人Cが日本に配属になる前から被告人Bと親しくしていたことは証拠上明白な事実であり、右公判供述が被告人Bの公判供述を面前で聞いた後になされたものであることをも併せて考えると、被告人Cの右公判供述は信用することができない。)。

(三) 以上により、この点を否定する被告人Bの供述は信用することができず、他方、被害者の供述及び被告人Cの捜査段階での供述は信用性が高いと考えられるので、被害者を捕まえる際に被告人Bが殴ったことを認定した。

2  被告人Bが被害者を姦淫したと認定した点について

(一) 被告人Bの公判供述、供述書(権利放棄書添付。以下同じ。)、その翻訳文等の証拠によれば、同被告人は、犯行の翌々日にアメリカ合衆国海軍犯罪調査局(略称はエヌ シー アイ エス〔NCIS〕。以下この略称を用いる。)の調査官から本件について事情を聞かれ、その際に右供述書を作成したことが認められる。そして、右供述書には、被告人Bが自らも被害者を姦淫した旨を供述したことを示す記載がある。

被告人Bの弁護人は、右供述書の信用性を争っている。また、被告人Bは、公判廷において、右事情聴取ではそのようなことは言っていないが、自分は怖かったし、調査官から罪を認めれば日本では刑が軽くなるなどと言われたため、右供述書の内容は深く読まずに署名したなどと供述している。被告人Bの右公判供述は、自分の意思に基づくものではないという意味でなされたもの、すなわち、いわゆる任意性についても争う趣旨のものと解される。

したがって、右供述書の記載内容、とりわけ、自らも被害者を姦淫した旨を被告人Bが供述した部分については、その任意性及び信用性が問題となる。

(二) そこで、まず主に任意性について検討する。

(1) 前掲関係各証拠によれば、この点に関して次のような事情が認められる。

ア エヌ シー アイ エスでの事情聴取が慎重に行われていること

(ア) 被告人Bの公判供述、供述書、その翻訳文等の証拠によれば、被告人Bは、事情聴取の前提として、日本人少女の誘拐及び強姦事件の被疑者であること、黙秘権及び供述拒否権があること、弁護人と相談し、事情聴取に立ち会わせる権利があること、いつでも退席できること等を告げられた上、これらを理解して自由意思で供述する旨の権利放棄書に署名したことが認められる。

この前提どおりに事情聴取が行われ、供述書が作成されたのであれば、その任意性には特に問題がないと考えられる。

(イ) ところが、被告人Bは、公判廷において、弁護人の立会いを希望したが受け入れられずに聴取を続けられたとか、自分の言っていることと違うことを言わせようとさせられたと供述している。そこで、右事情聴取の状況がどのようなものであったか検討を要する。

被告人Aは、公判廷において、自分はエヌ シー アイ エスから二回呼び出されたが、弁護人の立会いを求めたためにいずれも事情聴取は受けることなく終了した旨を供述している。そして、被疑者判明捜査報告書によれば、被告人Aは、犯行に用いたレンタカーを借りる際に書類に署名していたため最も早く嫌疑を受けることになり、エヌ シー アイ エスから一人だけ呼び出されたこと、その後に被告人C及び同Bと共に再度呼び出されたこと、被告人Aに対する右各事情聴取の状況は概ね同被告人の右公判供述どおりであったことが認められる。そうすると、被告人Aに対するエヌ シー アイ エスの対応は極めて慎重になされたものといえる。そして、被告人Aのみを特別扱いする理由も見出し難いから、被告人Bに対しても同様の対応がなされたものと推認するのが合理的である。

したがって、これに反する被告人Bの右公判供述は信用性が乏しいというべきである。

(ウ) そうすると、被告人Bに対するエヌ シー アイ エスでの事情聴取は慎重に行われたものと推認することができる。このことは、その際に作成された供述書の任意性を肯定する方向に働く事情といえる。

イ 被告人Bは、右供述書の内容を了解した上で間違いないものと確認し、署名していること

(ア) 右供述書は、添付の権利放棄書を含めて、被告人Bの母国語である英語で全て記載されている。そして、右供述書は、A四版で五頁半、一頁当たり四九行の分量を有するが、単に最終の末尾に被告人Bが署名しているだけでなく、各頁の最下部にも署名があり、さらに各パラグラフの最初と最後、各頁の最初と最後にも同被告人のイニシャルがアール・エイチ(R,H)と記載されている。被告人Bの公判供述によれば、この署名やイニシャルは同被告人自身が記載したものと認められる。

これらの事実は、被告人Bが右供述書の文章をすべて読んだ上で署名等を記載したことを推認させるものである。

(イ) 被告人Bは、公判廷において、前記のとおり、罪を認めれば日本では刑が軽くなるなどと調査官から言われたことなどから、右供述書の内容は見ずに署名等を行ったなどと供述している。

しかし、他方で、その当時自分が日本で裁判を受けることになるとは知らなかった旨の矛盾するような供述もしている(第四回被告人B供述調書第117及び118項)。加えて、このような認識でいたのであれば、その後の日本の捜査機関の取調べに対しても同様の態度をとるのが自然である。それにもかかわらず、被告人Bの検察官調書(九通・乙23から31まで)及び警察官調書(二通・乙21及び22)によれば、同被告人は、検察官や警察官の取調べに対して、自分は犯行には一切加わっていない旨の虚偽の供述をしたり、種々の弁解、記載内容の訂正申入れを行っていることが認められる。この点でも被告人Bの供述態度は一貫していない。

また、被告人Bは、公判廷において、右供述書の内容を深く読んだのではないが、ぱっと見た際にスペルの誤りに一箇所気付いて訂正したと供述している。確かに、右供述書の四頁最終行には、被告人Bがスペルを訂正したと思われる部分が一箇所存在する。しかし、このような供述は、内容自体が不自然かつ不合理といわざるを得ない。かえって、被告人Bが被害者を姦淫した旨を記載した部分が右訂正箇所の同じ頁の直ぐ近くにあることからすれば、同被告人は右記載内容を認識していたと推認するのが自然である。

したがって、右供述書の内容は見ずに署名したという被告人Bの右公判供述も信用性が乏しいといわざるを得ない。

(ウ) そうすると、被告人Bの右供述書の署名は同被告人が内容を了解した上でなされたものと推認することができる。そして、最終の署名部分には、記載内容に間違いがないことを確認した旨の記載がある。したがって、このことも、右供述書の任意性を肯定する方向に働く事情となる。

ウ 右供述書がかなりの分量を有しており、その内容も詳細かつ具体的であること

前記のとおり、右供述書が作成されたのは犯行の翌々日であるが、被告人Bの公判供述、供述書、その翻訳文等の証拠によれば、この被告人Bのエヌ シー アイ エスでの事情聴取は数時間のうちに終了して右供述書が作成されたことが認められる。そして、右供述書の分量は前記認定のとおりであって、その内容も、全体として詳細かつ具体的なものである。しかも、被告人Bが被害者を姦淫したという部分には、陰茎を表すために用いた「ディック(DICK)」という単語の意味をわざわざ説明する内容も含まれている。

このように、右供述書は、数時間のうちに作成されたものであるにもかかわらず、かなりの分量を有しており、しかも、詳細かつ具体的な内容を有している。このことは、被告人Bが自発的に供述したことを推認させるものであり、右供述書の任意性を肯定する方向に働く事情となる。

(2) 右(1)でみたとおり、右供述書の全体としての任意性を肯定する方向に働く事情が複数存在する。他方、右(1)のア及びイで検討したとおり、被告人Bが右供述書の任意性を争う趣旨でしたものと解される前記(一)の公判供述は信用できない。そして、本件全証拠を精査しても、他に任意性に疑いを抱かせるような事情は認められない。

したがって、右供述書の任意性は問題ないものと考えられる。

(三) 次に、進んで信用性について検討する。

右(二)で任意性に関して指摘した各事情は、同時に右供述書の全体としての信用性をも高める事情となる。加えて、右供述書には自分に不利益な客観的真実を述べた部分があり、この点からも右供述書全体の信用性は高いといえる。すなわち、被告人Bの公判供述、供述書、その翻訳文、被疑者判明捜査報告書等の証拠によれば、被告人Bのエヌ シー アイ エスでの事情聴取の結果を受けて、被告人三名のパンツ等の証拠品が発見され、捜査が進展して行ったことが認められる。また、被告人Bは、自分が被害者の手首をダクトテープで縛ったことについて、右供述書においては認めているが、検察官及び警察官の取調べでは一貫して否定し続けた後、起訴前日になって認めるに至っている(検察官調書〔乙14、23、28、30〕及び警察官調書〔乙21、22〕)(被告人Bは、警察官に対しても認めた旨を公判廷で供述しているが、右各警察官調書の内容に照らして信用できない。)。この点に関する右供述書の内容が真実であることは、被告人B自身が公判廷で認めており、被告人Cの検察官に対する供述(乙10)によっても裏付けられているのである。

そして、わざわざ自分に不利益な虚偽の供述を任意に行うとは通常考え難いし、そのような供述を行う理由は見当たらない。したがって、右供述書の記載内容のうち、被告人Bが自らも被害者を姦淫したと供述した部分の信用性は特に高いと考えられる。

(四) 被告人Bが被害者を姦淫したという供述書の内容は、以上に検討したとおり、任意性には問題がなく、その信用性は高いと考えられるが、証拠上認められる次の各事情とも符合するものである。

(1) 被告人Bのパンツ(下着を指す。以下、パンツという言葉は下着を意味するものとして用いる。)に被害者の血液と推認される血液が付着していたこと

ア 被害者、D子及び橋口幹夫の各検察官調書等の証拠によれば、被害者は、本件被害を受けるまで性交経験はなく、犯行によって処女膜裂傷等の傷害を負ったこと、犯行直後の被害者のパンツには比較的多量の血液が付着していたことが認められる。右事実によれば、被害者が犯行によって右傷害を負い、陰部から出血があったことを推認することができる。そして、写真撮影報告書(甲34)及び鑑定書(甲56)等の証拠によれば、被告人Bが犯行当時着用していたパンツ前面の裏側には、被害者と同じ血液型、ディー エヌ エー(DNA)型の血液が付着していたこと、その付着箇所は、パンツの中央部から右側にかけて比較的広範囲であり、パンツをはいた時に丁度陰茎が当たる部分であることが認められる。

これらの事実は、右血液が被害者のものであって、被告人Bが被害者を姦淫し、その後パンツを着用したことにより付着したものであることを強く推認させる重要な事実である。

イ 被告人Bは、公判廷において、被告人Aが怖かったので、パンツをはいたまま被害者の上に乗るような姿勢をとって姦淫するふりをしたが、その際に右血液が付着したと思う旨を供述している。しかし、付着しているのはパンツの裏側であるし、付着の度合や範囲に照らすと、そのような経緯で付着したとは考え難い(また、被告人Bは、公判廷において、手についた血液をパンツで拭いた際に付着した旨の供述もしている。しかし、右供述は、パンツの裏側に付着している理由を追及された後の弁解としてなされたものであって〔乙26、31〕、場当り的になされたものとの印象を拭い去ることのできないものであるし、手に付着した理由について合理的といえる説明は何らなされていない。そして、血液の付着状況に照らして、そのような経緯で付着したとも考え難いから、やはりその信用性は乏しいといわざるを得ない。)。

また、被告人Bの弁護人は、表側に付着したものが裏側に浸透したと考えられるし、付着箇所は陰茎が当たる部分ではないと主張している。しかし、右鑑定書を作成した鑑定人である技術吏員は、パンツの現物を見た上で裏側に付着していると判断しているのであるし、右写真撮影報告書及び鑑定書中の被告人Bのパンツを写した各写真を比較対照してみれば、裏側に付着したものであることは明白である。そして、右弁護人が主張する付着箇所は、右鑑定書中の写真3に矢印<1>で示された丸枠内の部分のみを指すものと考えられるが、右部分は単に鑑定に用いた部分を示したに過ぎないと解するのが合理的である。右写真によれば、その部分以外にも比較的広範囲に血液ようのものが付着していることは一見して明らかであり、これらも丸枠内の部分と同じ血液であると解するのが自然である。

したがって、被告人Bの右弁解は信用できず、その弁護人の右各主張も理由がない。

(2) 被告人Bが被害者のいる犯行車両後部座席内に入った後に車が上下に少し揺れていたこと、その後、被告人Bが車から出た時に同被告人の半ズボン及びパンツが膝までずり降りていたこと

ア 被告人Aは、捜査段階から一貫して、右各事実を供述している。

右供述内容は、被告人Bが被害者を姦淫したことと符合するものである。

イ もっとも、被告人B自身はこれを否定している。そこで、被告人Aと同Bの各供述のうち、どちらが信用できるかが問題となる(これに対して、被告人Cは、被告人Bが犯行車両内に入ってからの様子は見ていない旨を供述している。)。

被告人Aは、検察官の取調べ及び公判段階を通じて、自分が強姦を発案したこと、最初に自分が被害者を姦淫したこと、姦淫直前に被害者を殴ったことなど、自分に不利益で、かつ、重要な事実を一貫して認めている(被告人Aの公判供述によれば、同被告人が米国在住の家族に自分の罪を否定する内容の手紙を送ったことが認められる。しかし、これについては、家族に心配をかけたくなかった旨の合理的な説明がなされている。)。そして、被告人Aは、被告人C及び同Bの言動に関しても、例えば、右両被告人が被害者を姦淫している場面自体は直接見ていないと供述するなどしていて、ことさらに他の被告人に罪をきせるような供述態度はみられない。これに対して、被告人Bは、前記のとおり、供述内容の著しい変遷を繰り返しており、重要な部分について信用性を否定せざるを得ない供述を行っている。

このような事情からすれば、右両被告人の供述を比較した場合、被告人Aの供述がより信用性が高いと考えられる。

ウ そうすると、被告人Aの供述どおり、被告人Bが被害者のいる乗用車内に入った後に車が上下に少し揺れていたこと、その後、被告人Bが車から出た時に同被告人の半ズボン及びパンツが膝までずり降りていたことが認められる。これらの事実は、被告人Bが被害者を姦淫したことと符合するものといえる。

このように、被告人Bが被害者を姦淫したという供述書の内容は、証拠上認められる重要な事実によっても裏付けられており、その任意性に問題はなく、信用性が高いという判断は、より確実なものといえる。

(五) 以上に検討したことからすれば、被告人Bの供述書の記載内容は任意性に問題がないものと認められ、少なくとも、自らも被害者を姦淫したという被告人Bの供述部分については、信用性も高いと考えられるし、その裏付けとなる重要な事実も認められるのである。

このような理由によって、被告人Bが被害者を姦淫したことを認定した(被告人Bの弁護人は、同被告人が姦淫していないことの主要な根拠として、同被告人に姦淫されたのかどうかがはっきりしない旨の被害者の供述を挙げている。しかし、被告人Bが姦淫行為を行ったのは、既に被告人Aが姦淫した後のことである。被害者の検察官調書によれば、被害者は、被告人Aに姦淫されたことによって我慢できないくらいの激痛を感じたことが認められる。被告人Aの姦淫行為が終了したことによって、このような激痛が直ちに消失するとは到底考えられないから、引き続いて被告人Bに姦淫されたことをはっきり認識、記憶できなかったとしても何ら不自然なことではない。しかも、被害者は、車内で自分を殴った犯人とその後に自分を姦淫した犯人との同一性すらはっきりしないかのような供述をしているのである。被害者が感じたであろう恐怖感等からすれば、この時の被害者の感覚や認識、記憶能力は著しく麻痺していたものと推測できるから、このような意味でも被害者の供述は納得できるものである。したがって、被告人Bの弁護人の主張は理由がない。)。

三  なお、被告人Cは、捜査段階から一貫して、自分は被害者を姦淫しようと試みたものの、同女が幼いことに気付いて姦淫を断念した旨を供述している。そして、本件全証拠を精査しても、被告人Cが姦淫を完遂したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、この点については、被告人Cの供述に沿って事実を認定した。

(法令の適用)

被告人三名の各行為のうち、強姦致傷の点はいずれも刑法六〇条、一八一条(一七七条)に、逮捕監禁の点はいずれも包括して同法六〇条、二二〇条に該当する。これらの被告人三名の各行為は、いずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪としていずれも重い強姦致傷罪の刑で処断する。定められた刑の中からいずれも有期懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で、後記の量刑事情を考慮して、被告人A及び被告人Bを各懲役七年に、被告人Cを懲役六年六か月にそれぞれ処した上、同法二一条を適用して、未決勾留日数のうち、被告人A及び被告人Bに対しては各九〇日を、被告人Cに対しては七〇日を、それぞれその刑に算入する。

訴訟費用は刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人三名にいずれも負担させない。

(量刑事情)

一  当裁判所が量刑にあたって主に考慮した事情のうち、被告人三名に不利な事情は次のようなものである。

1  被告人三名に共通の事情

(一) 被害者の落ち度が皆無であること

被害者は、学校から一旦帰宅した後、翌日の授業に備えるために文房具を買いに行き、その帰宅途中でいきなり被告人らに襲われたのである。被害者が犯行の誘因行動をとったという事実はまったく存在しないし、拉致された現場を通った理由、時間帯等、いずれを見ても、被害者に落ち度とみるべき事情は皆無である。

(二) 犯行が計画的であること

被告人三名は、拉致の方法を具体的に考えた上、これに用いるためにダクトテープなどを購入して用意し、乗用車に乗って強姦に適する女性を物色して、被害者を認めるや、ほぼ予定どおりの方法で犯行を実行しているのである。このように、犯行は計画的なものであり、被告人らの強い意欲を推測させるものであって、その犯情ははなはだ悪い。

なお、このうち、ダクトテープを嘉手納基地内の売店で購入したのが被告人Bであることは証拠上明らかである。ところで、被告人Bは、被告人Aから引っ越しの際の梱包用に要ると言われたから買ったのであって、犯行に用いるために購入したのではない旨を供述している。しかし、被告人Aはこのようなことは言っていないと明確に否定しているし、犯行前に被告人三名と行動を共にしていたF及び被告人A(乙4)の各検察官調書によれば、右売店に赴いたのは被告人Aが拉致の方法について具体的に提案した後のことであること、右提案は強姦には相手の手足を縛ったり目隠しをするためのテープが必要であるという内容であったこと、被告人Bは購入したダクトテープを被告人Aに直ちに渡さずに一部を切って自分の指に巻き付けたりするなどの動作をしていたこと、Fは、被告人Bのこのような動作を見たことから被告人三名が本気で強姦を実行するつもりであると感じ、逃げようと考えて自分を兵舎のあるハンセン基地で降ろしてくれるよう言ったこと、被告人AはこのようなFの意図を知ってこれに応じたことが認められる。これらの事実に加えて、現実に右ダクトテープが犯行で用いられていることをも併せて考えれば、被告人Bは犯行に用いるためにダクトテープを購入したと考えるのが自然かつ合理的である。したがって、被告人Bの右供述は信用できない。

(三) 犯行態様が極めて悪質であること

被告人三名は、犯行当時二〇歳から二二歳の軍人であって、いずれもたくましい体格を有している。犯行態様は犯罪事実の項で認定したとおりであって、このように屈強な被告人らが、町中を歩いていたわずか一二歳の女子小学生を三人がかりで拉致及び監禁した上、暴行を加えたあげくに次々に姦淫に及んだのである。この間、被害者は、ほとんど抵抗もできずに被告人らの凌辱行為を受けることとなった。このように、犯行態様は、被害者の人格をまったく無視し、被害者をあたかも欲望を満たすための道具として扱ったものであり、まことに凶悪かつ大胆であって、極めて悪質というべきである。

(四) 結果が重大であること

被害者は、本件被害を受けたことによって、この上ないほど大きい恐怖感、屈辱感を味わったのであり、その精神的衝撃は計り知れないものがある。また、傷害の内容も悲惨なものであり、暴行等を受けたことによる肉体的苦痛も察するに余りある。加えて、被害者の年齢を考えると、未だ発達途上にある被害者の精神面にこのような体験が与えるであろう影響は大きいものと考えられ、その将来には多大な不安を感じざるを得ない。被害者の両親らは、被告人らに対して強い怒りを感じているだけでなく、娘の将来について強い不安を訴えている。これらの事情からすれば、被害者が「犯人を死ぬまで刑務所に入れて下さい。」と述べていることや、被害者の両親らが厳罰を望み、被告人らからの慰謝料の支払を受けた後もその気持ちに変わりはない旨を被害者の父親が述べていることも被害感情として無理からぬものと考えられる。

また、本件犯行は、公になるや、地元の町議会が抗議決議を行うなど大きな影響を地域社会に与え、その報道が連日のようになされるなど注目を集めた。本裁判が被告人ら個人の刑事責任のみを対象としていることはいうまでもないが、犯行自体から必然的に生じたと考えられる社会的影響を考慮すべきことも自明のことである。本件犯行は、同種事案と比較しても特に悪質ということのできるものである。それゆえに地域社会に多大な恐怖感等を与え、右のような反響を招いたものであるので、このことを軽視することはできない。

2  各被告人の個別的事情

(一) 被告人A

同被告人が犯行に及んだ動機について見ると、同被告人は、肥満が原因で本国への転属が延期になったことや、身に覚えのないセクシャルハラスメントで部隊内で批判されていたことが原因でストレスを感じており、そのはけ口を求めて犯行に及んだと供述している。しかし、たとえこれらが真実であっても、無関係の女性を強姦することについて、いささかなりとも斟酌すべき理由となり得ないことは明らかである。加えて、被告人Aは、自分が外国人であって人相などの個人的特徴を記憶されにくいということや、日本の女性が護身道具を持ち歩いている可能性が少ないということを考えた上で犯行に及んでいるのであり、このような卑劣かつ狡猾な思考態度は強く非難されなければならない。

そして、被告人Aは、強姦の話を持ち出して本件の契機を作っているだけでなく、実行の方法を考えたり、最初に姦淫を実行するなどしていて、主導的役割を果たしている。

(二) 被告人C

被告人Cは、犯行に及んだ動機として、被告人Aに応じて冗談で話をしているうち、強姦が可能なのではないかと考えるに至って、性欲のおもむくままに犯行に及んだ旨を供述している。したがって、このような自己中心的かつ理不尽な動機に酌量の余地はない。

犯行の実行面においても、被害者を拉致するという重要な行為をしているし、姦淫行為についても試みているのであるから、その果たした役割などが小さかったとはいえない。

なお、被告人Cは、公判廷において、犯行は自分の積極的な意思で行ったものではなく、被告人Aに半ば強要されたものである旨を供述している。しかし、前記認定のとおり、被告人三名と行動を共にしていたFは、被告人Bがダクトテープを買うなどしたことから、被告人三名が本気で強姦を行おうとしていると感じて、このような犯罪に加わりたくないと考えて離脱しているのである。このようなFの行動に加えて、被告人C自身が行った犯行内容をも考えれば、被告人Cの右公判供述は説得力に欠ける。

(三) 被告人B

被告人Bは、共謀に加わった理由について、被告人Cと同様、被告人Aに半ば強要されたものであるとの供述を行っている。しかし、被告人Cに関して述べたことと同様、Fの行動や被告人B自身が行った犯行内容からして信用することができない。そして、被告人Bは、前記のとおり、自分の行った実行行為の主要部分を否定しており、犯行動機として同被告人が供述するものはない。しかし、被告人Cと同じく、被告人Aの話を聞いているうちに強姦が真実可能なのではないかと考え、性欲のおもむくままに犯行に及んだであろうことは容易に推認できる。そうすると、まったく同情の余地がないことは明らかである。

犯行の実行面においても、被害者に話し掛けたり殴ったりして拉致を容易にしていて、前記認定のとおり姦淫行為も完遂しているのである。

そうすると、被告人Bは被告人Aと同等程度の役割などを果たしたと評し得る。

二  一方、主に考慮した有利な事情は次のようなものである。

1  被告人三名に共通の事情

被害者らの慰謝の措置に関して、被告人Aの両親らが拠出した合計九〇万円が被告人三名の連名で支払われている。そして、程度の差は窺われるものの、被告人三名ともに一様に犯行を反省している旨を述べ、被害者らに対する謝罪の態度を表している。被告人らは三名ともに若く、いずれも将来のある年齢であるが、これまで軍人として大過なく過ごしてきていて、今後のさらなる自省自戒を深めることによって更生も可能である。

2  各被告人の個別的事情

(一) 被告人A

同被告人は、捜査段階から一貫して自分の行った行為をほぼ認めており、その供述態度は真剣な反省を示すものといえる。そして、アメリカ在住の妻が来日して情状証人として出廷し、さらに被告人Aを知る者から多数の手紙が法廷に提出されており、これらの者が被害者への謝罪や被告人Aの寛大な処分を嘆願している。また、同被告人には、妻のほか養うべき幼い子が二人いる。

(二) 被告人C

同被告人は、姦淫を試みた上でのこととはいえ、被害者が幼いことに気付いた後には自らが姦淫することを止めており、この点は他の被告人と対比して斟酌すべき事柄となり得る。そして、前記のとおり、公判供述の一部には信用性に乏しいものがあるが、自分の行った行為については捜査段階からほぼ一貫して認めており、その供述態度は反省を示すものと一応いえる。また、知人からの多数の手紙が法廷に提出されており、部隊での上司も情状証人として出廷し、その人柄や平素の生活態度が良好であったこと、その更生の可能性の高いことを述べている。

(三) 被告人B

同被告人の供述態度は前記のとおりであって真剣な反省を行っているか疑問を抱かざるを得ないものであるが、犯行自体については反省の情を表しており、被害者に対する謝罪の態度をとっている。また、被告人Aと同様、アメリカ在住の妻が来日して情状証人として出廷し、被害者への謝罪や被告人Bの寛大な処分を願い出ている。そして、同被告人にも、妻のほか養うべき幼い子がいる。

三  まとめ

以上に説明したところによれば、犯行について主導的立場にあった被告人Aはもとより、同等程度の役割を果たすなどした被告人B、これらの被告人と比較して大差ない役割を果たすなどした被告人Cの責任は、いずれも重大である。被告人三名は、いずれも若年とはいえ、既に一人前の軍人として社会生活を送り、あるいは家族を有する立場にあるのであるから、このような立場にあるものとして、今一度自分達の行った犯行を真剣に省みる必要がある。そして、右各責任の重大さからすれば、被告人三名それぞれについて有利な事情を十分に考慮しても、相当期間の懲役刑をもって臨むほかない。

このような理由により、主文掲記の各刑の量定をした。

(出席検察官)

野村雅之、石原誠二

(弁護人)

比嘉正憲(被告人A)、新川豊(被告人C)、松永光信(被告人B)

(補佐人)

G(被告人C)、H(被告人B)

(求刑)

懲役一〇年(被告人三名共通)

(裁判長裁判官 長嶺信栄 裁判官 大野正男 裁判官 江原健志)

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